書評:自分の小さな「箱」から脱出する方法

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最近,” 自分の小さな「箱」から脱出する方法(Amazonリンク)”という書籍を読んだ。個人的には参考になる箇所が多く,備忘録を兼ねた書評として紹介。

表紙に” 人間関係のパターンを変えれば,うまくいく! ”とあるように,対人コミュニケーションに関する書籍。家庭内やビジネス場面におけるコミュニケーションの問題解決につながる思考法が,登場人物の対話形式で説明されている。

内容

転職して1カ月,「自分ほど努力してきた人間はいない」という自負を持った主人公が,アピールの場として上司との面談に臨む。しかし期待とは裏腹に,上司からは「君には問題がある」と伝えられる場面から本書は始まる。

主人公が抱える問題が「箱」の中にいることであると指摘される。この「箱」は,自己欺瞞の比喩表現であると考えていい。要するに,自己欺瞞の箱の中にいるか,外にいるかが対人関係の問題の根源であるとのこと。

箱の中にいるときは,周囲を歪んで目で見ており,他人を物として扱っている状態,また自分のことしか考えていない状態。箱の外にいるときは,他人をあるがままの人間として見ている状態らしい。直感的にも,箱の中にいることが対人関係の問題を引き起こすだろうことは理解できる。

この「箱」の中に入るきっかけは,「自分への裏切り」であるとか。「自分への裏切り」は,”自分が他の人のためにすべきだと感じたことに背く行動”を指す。そして一度自分の感情に背いてしまうと,”周りの世界を,自分への裏切りを正当化する視点から見るようになる”らしい。

配偶者のいる家庭を例に出すと,溜まっている食器の洗い物を片付けようと考えた後に,何らかの理由でそれをやめることが「自分への裏切り」にあたる。こうして自分の感情に背いてしまうと,自分を正当化するために「洗い物が溜まっているのは,それに気付かない妻が原因だ」「私は仕事に一生懸命で疲れている」「私だけが周囲の状況に気付ける」といった思考が生まれてしまう。つまり,箱に入ることで周囲に攻撃的になり,歪んだ自己正当化イメージ(自分が正しいなら,相手が悪い)が形成される。

当然,「箱」は自分以外の人間にも存在している。互いに箱の中にいる場合は,お互いに箱の中にいるように仕向ける行動をとってしまう。例えば,部下のことを「仕事ができないダメな奴」と歪んで目で見ている上司と,反対に,上司を「理不尽な量の仕事を与えてくる嫌な奴」と考えている部下がいるとする。これらの歪んだ認識(「箱」)を維持するために,上司は完遂が困難な多量の仕事をあえて割り振り,部下は理不尽な量の仕事であると主張するために仕事に全力で取り組まない可能性がある。こうなるってしまうと,互いに互いが「嫌な・ダメな奴」という認識を維持することとなり,互いに互いが「箱」から出ないような行動をとってしまう(書籍内では「共謀」と表現)とか。

では,箱から出るためにはどうすればいいのか。解決策はひどく単純で,「どうすれば箱の外に出られるのかを考えること」である。箱の中にいる状態は,自分のことしか見えていないが,箱の外に出ようと考えること,つまり他人に歩み寄ろうと考えることが,自分ではなく周囲に目を向けていることを意味する。

感想

正直,上記の内容だけでは書籍の主張全体を理解できないと思うが,気になる人は各自で手に取って読んでみてほしい。

個人的には,過去に経験した対人関係の問題は「箱」のフレームワークで説明可能なものが大半であると感じた。それと同時に,過去の自分がいかに傲慢で,自意識過剰であったのかを理解し,恥ずかしくもなった。

例えば,私が大学院生の頃,興味のある研究領域が近いということである学部生のメンターをしていたことがある。当時,私は領域の必読論文をいくつか選択し,期日を設定して読むようにと渡した。結果として,学生は期日内に読み終えることができなかった。そこで期日を延長し,さらに進捗をお互いに確認するためのチャットグループを作成するなど,フォローできるような体制を整えた。その後,論文を読み終えたという学生と内容について議論してみると,理解はちぐはぐで,論文は読んだが内容は理解していないといった状態だった。研究の進捗に危機感を覚えた私は,学生を攻めてしまい,それ以降のやり取りから最終的には関係が破綻してしまったため,メンターを降りることになった経験がある。

振り返ると,メンターとしての行動は,本当に学生のためを思って行われていたのだろうか。「私は(優れているから)学部生の頃からこの程度はこなしていた」と主張がしたいために,学部生にとって読むのが難しい論文を渡していたのではないか。「他人を管理したいという」という欲求を満たすために,チャットグループを作成したのではないか。「私ほどこの研究領域を理解している人間はいない」と誇示したいがために,学生の理解を攻めたのではないか。「箱」のフレームワークで考えると,当時の自分の行動はこのように考えることができる。このように考えていた自覚は全くないが,学生にもっと寄り添った提案はできたはずだろうと今では思う。少なくとも,対人関係上の問題があったということは,私のやり方はどこかピントがずれていたことに違いはない。当時の学生とは和解したが,改めて非常に申し訳ないことをしてしまったと悔やまれる。

夫婦や会社での人間関係など,様々な場面でこのフレームワークは活用できる。自分に何か問題はないか,つまり自己中心的な立場を離れて物事を考えることができる。とはいえ,自己中心的に考えるのではなく,他者に歩み寄る気持ちを持ちましょうという本書の主張は,当たり前のことといえば当たり前である。しかし,自己欺瞞の「箱」の中にいることの何が問題なのか,そしてそれがどのように悪い対人関係に繋がるのか,そしてどのように解決するのかを分かりやすく整理してくれるので,対人関係を考えるうえで一読の価値があると思われる。

つまるところ,自分が「箱」の内側にいたということを強く認識できたので,これからは「箱」の外側にいられるように認識を改めたいという決意をしたという話。

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